ヒマラヤ横断地質見学記 (小滝篤夫)
京都府綾部市に本拠を置く地学研究グループ「北京都地学研究会」の巡検旅行の記録である。ネパール、カリガンダキ川に沿って、ムスタン地域のカグベニ村からガレスワール村までを、トリブバン大学のウラク先生の案内で、2003年12月21日から30日にかけて地質見学をした。
旅行の手配は、大阪のアスカトラベルにしていただいた。社長のヒラチャン氏はカリガンダキ川流域のマルファ村の出身で、日本在住30年になるが祖国を思う気持ちは人一倍の熱血漢である。アスカトラベルのアレンジで、トレッキングガイド、ポーターだけでなく地質ガイドまでお世話いただいた。
私はネパールトレッキングは8回目になるが、今までは一人旅で、ガイドを雇った経験はなかった。しかし、ネパールの最近の政治情勢を見ると、現地に詳しい信頼できるガイド・ポーターとともに歩いたことは大正解だった。
今回は、近藤亨先生のNPO、MDSA(ムスタン開発協力会)のボランティアのための荷物運びもかねていた。MDSAの援助物資の古着と私の勤務校、福知山高校生徒会が寄付を募った文房具類をあわせて30kgほど、ジョムソンとカトマンズのMDSA事務所に運んだ。
ウラク先生のガイドブック(英文)pdfファイル 同(図)pdfファイル 京都地学23号カリガンダキ川地質案内pdfファイル
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| 12/21 関空からカトマンヅへ ロイヤルネパール航空の定期便で12:30関空発 18:40カトマンズ、トリブバン国際空港に着いた。 飛行機はB757、単通路で狭い。上海を経由して、クンミンーミャンマーーインドーバングラデシューインドーネパールと飛んでいく。機内食は関空発後と上海発後の二回出る。カトマンヅへ着いてか ら夕食は食べられない。ホテルでトレッキングガイドのデリップ・タパさん、地質ガイドのP.D.ウラクさん(トリブバン大学地質学教室講師)らと合流 事前に学習したウラク先生のムスタンの地質に関する文献はこちら |
カトマンズ、スワヤンブナートの仏塔 |
| 12/22 カトマンヅからポカラへ 午前は、旅行代理店の手配でカトマンズ観光。カト マンズ北西の仏教寺院のスワヤンブナートと旧王宮広場の観光、レストランで昼食の後、トリブバン空港から、コスミックエアーのDo228機でポカラに向かった。機窓右にはマナスルなどが見えた。 ポカラの宿は、私の定宿ホテル・マウンテントップ。 マネージャーのソヴィットさんの出迎えが気持ちよい。 |
ポカラのホテル前で、左からタパさん、ウラクさん、私。 |
| 12/23 ポカラからジョムソンへ ポカラは好天。マチャプチャレ、マナスルがよく見える。天候は申し分ない7時にホテルをたって空港に行ったが、 機材が故障。カトマンズに修理に戻ってしまった。 この後の日程変更をガイドさんと協議。その後は、参加者の希望でポカラ自由散策・買い物。 夕食は、昨日同様レストラン・ブーメラン。フェワ湖畔の野外の席で、夕食とともに民俗音楽・舞踊を鑑賞しそのあと一緒に踊りを楽しんだ。 |
ポカラで修理中のコスミックエアーDo228 |
| 12/24 ポカラからジョムソンへ 今日も早起きして再チャレンジ。無事、コスミックエアーのDo228機はヒマラヤの谷を縫いながらカリガンダキ川を北上し、ジョムソンの飛行場に着いた。 草木一本ない世界である。 空港に着いて、とりあえずこれも私の定宿、ホテルスノーランドで休む。主人のアーナンダさんが快く迎えてくれた。ひと休みしてMDSAの事務所に福知山高校の生徒会が集めた寄付の文房具類を持参した。鉛筆1000本ほかを事務所長代理の福田さんに渡した。 |
![]() MDSAの事務所で参加者一同 |
| ジョムソンからエクレバッティへ 11時頃からトレッキング開始。カリガンダキ川の河原を北に向かって歩く。吹き飛ばれそうな強い風が下流側から吹いてくる。追い風だからまだいいが、これが向かい風なら歩行が困難なほどだ。舞い上がる砂礫で口の中がざらざらする。 ジュラ紀後期のジョムソン石灰岩の褶曲が右岸側に見える。 |
ジョムソン石灰岩の褶曲 |
| エクレバッティからカグベニへ 食後出発したのは午後3時過ぎ。 途中の峠で、白亜紀中期のカグベニ累層の頁岩中に漣痕がみられた。右の写真はカグベニ累層中の漣痕化石。中生代白亜紀初期のテチス海の渚を示すものである。 カグベニに着くと16:30になっていた。宿について、カリ ガン ダキ川の河原で化石探しをしたときはもう薄暗く、成果はなかった。 |
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| 12/25 カグベニで化石採集 カグベニの西方のムクチナートから流れてくるジョンコーラの河原でアンモナイト化石の採集をした。ムクチナートには化石の豊富なムディン累層が分布し、この累層とカグベニ累層を流れるこの川には多くの化石を含んだ礫が流れ込んでくる。雨期明けの9月にはアンモナイト化石の石を商売のために採取する現地の人が大勢来て、丸い礫を選んで集め、火中や湯の中で温めてから水で冷やして割るという手法で化石採集をするそうだ。 右の写真は、河原の様子と、上方は融氷流水堆積物からなる段丘堆積物とそれが崩壊した崖錐。 |
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| カグベニからジョムソンへ 多くのアンモナイト化石を採集し、昼頃、カグベニからエクレバッティに向かう。 カグベニ累層(白亜紀初期)の漣痕、斜交層理、生痕化石、植物化石(Ptilopyllum)などを採取しながら進み、エクレバッティで昼食。 さらに右岸側を、穴居跡のある段丘堆積物を見ながら、ジョムソンに向かう。現世の堆積物でも、石灰分が豊富なので堆積物はコンクリート状で、礫は取り出せないほど固結している。 夜はMDSAの事務所に招かれて、味噌汁、肉じゃが、おひたしなどの夕食をご馳走になった。 |
![]() 段丘堆積物中の穴居跡(片岡道雄撮影) |
| 12/26 ジョムソンからマルファ 南側の隣村、シャンにあるMDSAの農園を見学してカリガンダキ川のほとりに出る。 左岸には中生代三畳紀後期のティニガオン累層の石灰岩・頁岩からなる山がそびえている。 左岸にはヒマラヤの隆起を反映した4段の段丘も望むことができる。 右の写真は、MDSAのりんご園とティニガオン累層からなるカリガンダキ左岸の山。 |
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| マルファからトゥクチェ 次第に下位の地層が見えてくる。 マルファ村の南方で対岸を見ると、黒色の頁岩が大きく褶曲している様子が見られる。この頁岩はデボン紀のもののようである。 トゥクチェで昼食。 |
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| トクチェからカロパニ トルクチェからカリガンダキ川の広い河原を歩く。右岸にラルジュン村が見えてくると古生代カンブリア紀からオルドビス紀の石灰岩が見られる。 さらに進んで道が森の中に入ると大理石が見られるようにjなる。花崗岩が貫入して変成を受けたためだ。カロパニの手前のダンプ村でみられる新生代第三紀中新世の花崗岩だ。 カロパニが近づくと川幅は狭くなり峡谷状になってくる。柔らかい堆積岩からなる南チベットー・テチスヒマラヤ帯から、硬い変成岩からなる高ヒマラヤ帯に入るからだ。 右の写真は8000mのダウラギリの北麓から流れ出る氷河を背景にした石灰岩の地層である(片岡道雄撮影)。 |
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| 12/27 カロパニからルスチェ 高ヒマラヤ帯の変成岩地域になる。白っぽい片麻岩が多い。比較的暖かい気候の影響もあり、斜長石が粘土鉱物に変質し、粘土が滑り面になって地すべりが多い。いたるところに大きな崩壊が見られる。チベット-テチスヒマラヤ帯では現世の堆積物でも石灰分のために固結していたのとは対照的だ。 世界最深の峡谷とされるところを通過すると、ルスチェ。片麻岩の上を落差88mの滝が流れ下る。ここで昼食。 |
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| ルスチェからタトパニ 今日はこの行程からしぐれになる。 カロパニからタトパニまでは高度差1000m余りの下りだがグレートヒマラヤの世界最深の峡谷を取りぬけていく。 このあたりの地質は、片麻岩ないし結晶片岩。ランショウ石を含んだ結晶片岩も見られた。 タトパニにはMCT(主中央衝上断層)にできた温泉が湧きでる。泉温は約70℃。カリガンダキの河原に露天風呂があり、各国のトレッカーの憩いの場である。 夜の学習会でチベット-テチスヒマラヤ帯の地質のまとめがあった。チベット-テチスヒマラヤ帯の柱状図はこちら |
眼球片麻岩、黒っぽいところはガーネット |
| 12/28 タトパニからティプリャン 雨の中をガイドが手配してくれたビニール袋を合羽代わりにかぶって出発。後日、カトマンズの新聞を見ると、乾季のこの雨(カトマンズ周辺では雪)が一面記事になっていた。 MCTを過ぎ、低ヒマラヤ帯の中を歩くことになる。地層が逆転しているので、ヒマラヤ最古の地層であるクンチャ累層の珪岩・千枚岩から順に新しい地層を見ながら雨の中を歩く。 途中、マオイストが接触したそうだがトレッキングガイドがすべて応対し、われわれは何事もなく済んだ。 (右の写真は、タトパニ南方で、花をバックにしたレッサーヒマラヤ帯の山、撮影:大槻道和)) |
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| ティプリャンからガレスワール 昼食をとったティプリャンにくると青空が広がってきた。 このルートの低ヒマラヤ帯の地層は、背斜構造をしているので、今度は南に向かうにつれて古いほうから新しい地層が順に見えてくる。今日見えた地層はすべて先カンブリア時代の地層である。 夜の学習会ではタトパニからここまで見てきた低ヒマラヤ帯の地質のまとめがあった。低ヒマラヤの柱状図はこちら |
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| 12/29 ガレスワールーベニーポカラーカトマンズ ガレスワールからベニの山道は、現地で手配したニッサンサファリに16人と荷物を載せて、早朝の真っ暗な山道をベニに下った。ベニからはワゴン車でポカラまで走る。この間は 低ヒマラヤ帯の地質が続く。断層によって切られているので、昨日見た累層群が繰り返し現れてくる。ベニからバグルンあたりまでは道が悪く時速10-20キロ。15キロ走るのに1.5時間かかった。 低ヒマラヤ帯のノーダラ累層の模式地ノーダラ村からのマチャプチャレがきれいだった(右写真)。 |
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| 12/30 カトマンズ この日は朝から市内観光。カトマンズの北東部にある仏教寺院ボダナートを観光し、ついでパタンにあるMDSAのカトマンズ事務所を訪れて、綾部から持ってきた古着類を事務所を預かるオパール・カドカさんに手渡した。これで任務はすべて終了した。 パタンの旧王宮広場(右写真)などを観光し、昼食の後、アサン、タメルで買い物。夕食はチベット料理の店で、ガイドさんたちやアスカトラベルの方とともに鍋料理のギャコックを囲んでお別れをし、23:30ロイヤルネパール機でカトマンズを離れ関空に向かった。 |